自動車産業のトレンドと今後の可能性は?転職先としては良い選択肢?

日本を代表する産業である自動車産業。依然ものづくりの代表的な存在ではありますが、技術の進歩やDX(デジタルトランスフォーメーション)、消費者の価値観の変化などの様々な時代の流れに伴い、業界全体のフォーカスが「自動車を製造して販売する」ことから、「より快適なモビリティをサービスとして提供する」ことへと変化している様子が見て取れます。
このように大きな節目を迎えている自動車産業について、この記事では業界の大まかな構造と近年顕著にみられるトレンド、また今後どのような発展や未来が予測されるのかについてご紹介します。加えて、エネルギー&エンジニアリング分野に特化したProgressive Recruitmentならではの知見から、現在転職をお考えの皆様にとって自動車業界は良い選択肢なのか、また、今後どのような事業に携わることができるのかを解説いたします。
自動車業界の構造
日本の自動車産業の市場規模は69.6兆円と言われおり、日本の全就業人口の1割近くにおよぶ529万人が広義の自動車産業に関わっています。広義の自動車産業には車の整備や修理、ガソリンスタンド業や輸送サービス業なども含まれますが、自動車製造業に携わる企業に関して言うと、大まかに分けて以下の3つの種類があります。
- サプライヤー(部品やパーツの製造を行う)
- メーカー(車体の組み立てを行う)
- ディラー(完成した車体の販売を行う)
自動車産業と聞いて多くの方が思い浮かべるトヨタ自動車や日産自動車、スバル、ホンダなどは、この中のメーカーに位置します。サプライヤーの中にも階層があり、これらのメーカーに直接部品を納品するサプライヤーはティア1(Tier1)と呼ばれ、ティア1のサプライヤーに部品を納品するサプライヤーがティア2(Tier2)、さらにその先には主に素材メーカーなどのティア3(Tier3)のサプライヤーがあり、非常に裾野の広い業界となっています。
ティア1のサプライヤーとして、日本企業ではトヨタ自動車をはじめとして国内大手メーカーのほぼ全てと取引を行うデンソーなどが有名です。ドイツのContinentalグループやBosch、スウェーデンのAutoliv、アメリカのVisteonなど、日本に拠点を持つ外資系企業も数多くあります。また、サプライヤー同士の事業提携や合併が進んでメガサプライヤーが誕生する動きに加えて、部品やパーツだけでなく、車載カメラや画像処理やAI関連技術を提供するサプライヤーが存在感を増しています。
自動車業界の近年のトレンド
自動車業界の近年のトレンドとして、Connected:コネクテッド、Autonomous:自動化、Sharing/Shared:シェアリング/シェアード、Electrification:電動化のそれぞれの頭文字を取ったCASEを挙げることができます。以下、各項目について詳しくご説明します。
Connected:コネクテッド
どの業界でも一大潮流となっているDX(デジタルトランスフォーメーション)が、自動車業界でも例にもれず進んでいます。Connectedとは、スマートフォンやパソコンと同様、社内に搭載された通信機器によって車がネットワークに接続されている状態を示します。これによって、車両の状態(整備不良や故障)や周囲の状況(混雑の具合等)に関するデータをネットワークを介して送受信することができます。車の利用者にとってのメリットとしては、すでに利用している方も多いであろうカーナビの渋滞情報や渋滞予測に加え、車両の故障や盗難の際に自動で通報がされたり、リモートでの制御ができたりといった点が挙げられます。国内でもトヨタ自動車や日産自動車によってすでに実用化が進んでおり、今後データが蓄積されていくことでより精度の高い分析が可能になると予測されます。
一方で、これによって新たに生まれる問題もあります。IoT(Internet of Things:モノのインターネット)と同様、ネットワークに接続されている全てのデバイスではサイバーセキュリティ上のリスクを孕んでおり、第三者が通信機器のハッキングを通じて車両をコントロールできるようになる可能性もあります。自動車ソフトウェアや基盤の生産を行う企業ではこれらの安全性を確実なものとするために度重なる検証を行っており、コネクテッドカー実用化における一つの大きな課題となっています。
詳しくは以下の記事をご覧ください。

自動車をサイバーアタックから守るには?次世代のセキュリティ問題
記事を読む
Autonomous:自動化
広く自動運転技術と呼ばれるものには「運転支援」と「自動運転」の2つの段階があり、主に以下のようなレベルに分類することができます。
- レベル1:運転支援(システムが車両の前後もしくは左右の移動を制御。自動追い越しなど)
- レベル2:特定条件下での自動運転機能(システムが車両の前後および左右の移動を制御。自動ブレーキや車間距離を保つなど)
- レベル3:条件付き自動運転(緊急時に人間の介入が必要)
- レベル4:特定条件下における完全自動運転
- レベル5:完全自動運転
運転支援(レベル1&2)では基本的にドライバー(人間)が運転することを想定し、事故や危険を避けるために車両搭載システムがハンドル操作や加速および減速のサポートをするものを指します。これらのシステムはADAS(先進運転支援システム)とも呼ばれ、車間距離を感知して速度やブレーキの調整を行ったり、夜間など視界が悪い環境で歩行者を検知して危険を回避したり、交通標識を画像認識してドライバーに適切な指示を出したり、駐車のアシストを行ったりなど、様々な技術がすでに多くの自動車メーカーによって導入されています。
さらに技術が進み自動運転のレベルとなると、基本的にはシステムによる制御が想定されます。レベル3では高速道路などの特定の条件下で自動運転を行うことが可能となり、ホンダはレベル3に分類される「トラフィックジャムパイロット」(高速道路での渋滞時に運転をシステムに待変えることができる)機能を搭載した車両を2021年に世界で初めて商品化しました。
レベル5の完全自動運転を実現する場合は、車両の開発にとどまらず、街や道路の再開発が必要となることも想定されるため、決して簡単な道のりではありません。また、事故が起きた場合の責任の所在など、法律関連の議論も技術の進歩にあわせて進めていく必要があります。
Sharing/Shared : シェアリング/シェアード
シェアリングエコノミーの台頭により、特に都市部では「車を個人で所有するもの」ではなく「シェアして必要な時に使うもの」であるという認識が高まっています。また、新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の拡大により公共交通機関の利用に不安を覚える人も増えており、今までは車が必要ないと感じていた都市部に住む人々にとっても、移動手段のあり方を見直す一つのきっかけとなっています。
Electrification:電動化
地球温暖化防止に向けたゼロエミッションへの動きが世界中で加速する中で、サスティナビリティを実現するため、電気自動車は多くの消費者にとってますます身近な選択肢となっています。また、災害大国である日本において、電気自動車は非常用電源として活用できる可能性も秘めています。充電できる場所が少ないなどの課題もありますが、日本でも政府や自治体が電気自動車購入者に向けて補助金や税優遇の制度を設けるなどの政策を進めており、今後シェアがますます拡大していくことが想定されます。
自動車業界の今後
以上のように様々な変化の過渡期にある自動車業界。今後、以下の動きが加速していくと予測されます。
MaaSの普及
MaaSとはMobility as a Service(モビリティ・アズ・ア・サービス)のことを指し、先述したSharing/Shared:シェアリング/シェアードが発展していくにつれて広く普及すると考えられます。海外ではすでに広く普及しているライドシェアビジネスですが、日本では法律の観点から普及が難しく、現状では農村部や過疎地域などの特定の条件下でのみ導入されています。言葉も生まれており、今後車はより快適で効率の良い移動を実現するための一つの手段として、個人の所有物というよりも公共の財としての側面を強めていく、また、自動車産業そのものがものづくりの産業から、モビリティという新たな価値を提供する業界へと変革していくことが予測されます。
自動車の域を超えた幅広い取り組み
トヨタ自動車は、あらゆるモノやサービスがつながるコネクティッド・シティを静岡県に構築する計画を発表しており、CASEやAI/ロボット、スマートホームなど様々なサービスの開発と実証に取り組みます。自動車に対する考え方の変化は、街のあり方や暮らし方にも大きな影響を与えるため、今後の自動車およびモビリティのあり方を模索していくうえで目が離せないプロジェクトです。
競争から協働の時代に
上述したトヨタ自動車の取り組みのように、今や自動車業界はAIやコネクティビティ、モビリティ提供のためのアプリ開発、またそれらに関するセキュリティの問題など、未だかつてないほど膨大なテクノロジー領域をカバーする必要があり、1社だけでその費用やリソースを負担することが現実的ではなくなってきています。今後、自動車業界を変革し、未来へと発展させていくうえで、企業やメーカーの垣根を超えた様々な協働プロジェクトが増えていくことが予測されます。
サスティナビリティは電気から水素へ
電気自動車の普及と同時に、水素自動車の研究や開発も進んでいます。水素と酸素の化学反応で生まれる燃料電池をエネルギー源として稼働する水素自動車は、ゼロエミッションでクリーンなことに加えて、電気自動車の課題の一つとなっている長時間の充電が不要であるというメリットがあります。製造にレアメタルが必要となるためコストが高い、燃料補給のためのインフラ整備の必要がある、など課題はまだ残りますが、今後の政府補助の方針などによっては電気自動車のさらに次世代のクリーン自動車として一般に広く普及する可能性を秘めています。
転職先としての自動車業界
このように変革の真っただ中にある自動車業界。2020年はCovid-19の影響で生産や売り上げの落ち込みが見られましたが、2021年に入ってから持ち直しています。今後の街や暮らしのあり方にも大きな影響を与えることができ、未来志向が強く、刺激の多い業界だということができます。
今後自動車業界で活かすことができるスキルとしては、主に以下が挙げられます。
ITスキル
これまでご説明してきたように、ITは現在の自動車開発において非常に大きな部分を担います。ソフトウェアエンジニアやセキュリティコンサルタントなど、ITのバックグラウンドを持つ方の需要および転職が増えていくことが予測されます。
カスタマーサクセス
顧客とのコミュニケーションの多くがデジタル化している現在、ある製品およびサービスのファンになってもらうことには非常に大きな価値があります。今後消費者が車に期待するものが変化していくにつれ、車という製品のみならずモビリティブランドとしての価値を提供していくため、デジタルマーケティングやカスタマージャーニーを通じてカスタマーサクセスを築くことのできるスキルは高い需要があります。
プロジェクトマネジメント/ステークホルダーマネジメント
企業の垣根を超えたイノベーションが進む中で、国内のみならず海外の関連企業とも共同のプロジェクトが今後多く予測されます。プロジェクトをスムーズに進めるため、各利害関係者の調整を図り、意見の対立があった場合にも対処してまとめていくことのできるスキルが重宝されます。また、語学スキルを中心とするコミュニケーションスキルも皆様の市場価値を高める大きな要素となります。
Progressive Recruitmentにお任せください
Progressive Recruitmentは自動車業界を中心にエネルギー&エンジニアリング領域に特化した転職と採用のサポートを行っております。世界15か国に展開する強みを活かし、外資系企業を中心とするクライアント企業様と強い関係を築いており、転職をお考えの方のキャリアアップをサポートいたします。また、日本で事業拡大を図る企業様の人材戦略実現のパートナーとして、バイリンガルかつグローバルに活躍できるトップクラスの人材をご紹介いたします。ご要望やご相談等ございましたら以下のフォームからお気軽にお問い合わせください。